一般社団法人ナースステーションおきなわ

 沖縄で新規開業する、訪問看護ステーションと、ソーシャルワークナース事業の立ち上げ準備や、思いなどをずらずらと綴っていきます。
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老いを受け止める・2

メッセンジャーナース介護・福祉健康・医療

こんにちは。
想いを繋ぎ 笑顔を増やす
メッセンジャーナース 鶴田恵美です。

前回に引き続き

在宅の現場でであった患者さんとその家族の
「食べる」ということについて書いてみますね。

1例目
〜「食べさせたい想い」が強い家族〜
患者であるAさんは80歳台後半で認知症もある寝たきりの女性でした。
会話もできず意思疎通もできません。
1日のほとんどを眠って過ごしていました。
体に触れると嫌がり、手足をばたつかせて拒否反応を示しました。
1人娘が毎日自宅で介護をしていました。

毎日3食、食事の為に車椅子に座らせて、
手作りで栄養たっぷりの、
ドロドロにつぶした食事を介助で口に運んでいました。

それでも食べられない時は点滴の希望がありました。
体に触れるだけで暴れるAさんを、押さえつけて針を刺します。
しかし、針が入ったとしても、点滴部位を触ったり、
チューブを引っ張ったりして漏れてしまう事も度々。
効果的とは言えませんでした。

「鼻から管を入れたり、胃瘻をしたりすることは、母は望んでいません」
とのことで、食事介助を必死でがんばっていましたが、
1回の食事時間が3時間かかることもあると聞いて驚いてしまいました。

眠っているのを無理矢理起こして、口を開かせて食事を入れる。
でも口の中に溜め込んだまま、また眠ってしまうというのです。
娘さんは食事をきちんと摂らせる、ということに一生懸命で、
寝たまま食べ物を口の中に入れてしまうことの危険性や、
3時間以上も車椅子に乗せられたままの疲労などは考えられないようでした。

「しっかり食事を摂ってもらって、母にはいつまでも長生きしてもらわなくては」

母1人、娘1人の生活を保とうと必死だったのに違いありません。
そして、「食べている限りは死なない」と思っている様子が
ひしひしと伝わってきました。


2例目
〜誤嚥してもいいから好きな物を〜
高齢で寝たきりのおばあちゃんは、嚥下機能も悪く
とても物を飲み込める状態ではありませんでした。
とろみをつけたものを口にしてもむせるので、
口から食べ物を摂る=誤嚥のハイリスク状態でした。
唾を飲み込んでもむせるような状態で、
のど元で常にゴロゴロと痰が絡んだり唾液が貯留していました。

誤嚥のために頻繁に発熱もしていたので、
臨時で往診に行く事も度々あり、
日々の吸引も家族にお願いしていました。

息子夫婦や孫もいる大所帯でしたが、
おばあちゃんのことを皆とても大切にしていました。

壁にはたくさんの家族写真や、デイサービスでの写真などが貼られていて、
大きなケーキを目の前にニコニコしているおばあちゃんの写真もありました。

「ケーキがお好きだったのですか?」と聞くと、
「おばあちゃん、生クリームが大好きなの。
でももう、食べさせてあげる事はできませんよね・・」とお嫁さん。

口からの摂取ができないので、ほんの少量の点滴を水分補給として施行していましたが、
点滴は食事の代わりになる事はなく、ほんの少し水分が入る程度なのですよ、
と主治医からは説明をしていました。

しかし数日後、おばあちゃんの誕生日に
「ケーキを食べさせたい、それで誤嚥しても本望じゃないかしら?」との
家族の想いを聴き、現在の状態と今後起こりうる事について改めて話をしました。

「食事をとっていない状態であっても発熱を繰り返し痰も多い。
食べ物を口に入れる事で誤嚥性肺炎で命を落とす事にもなりかねない」
という主治医の説明にも、家族の気持ちは揺るぎませんでした。
「食べてむせたら吸引します。きっともう最期は遠くないでしょう。
それなら、最後のお誕生日には好きな生クリームを食べさせてあげたい」

そして、おばあちゃんは沢山の家族に囲まれてお誕生日パーティーをしました。
生クリームを口にいれると、嬉しそうに口を動かしたそうです。
その後も発熱は繰り返していましたが、お誕生日を機に、
何かしら口から食べ物を味わう事をしながら最期を迎えられました。
「栄養」としてではなく、「生きる楽しみ」としての食事でした。

老いを受け止める・2

3例目
〜口にするのはコーラだけ〜
70台の男性は癌の末期状態でした。
食欲もなく、癌による苦痛から動く事もままならない状態でした。
元気な時にはそれほど好きだった訳でもないコーラでしたが、
なぜか癌になり食事も摂れない状態になってからもコーラだけは受け付けたようです。
いつ訪問してもベッドサイドにはコーラがありました。
最期の日を迎える前日までコーラを飲みながら、旅立たれていきました。


4例目
〜退院当日も経管栄養していたのに〜
老人ホームに入居していた80台後半のAさんが、誤嚥性肺炎を起こして入院しました。
病院ではすぐに絶食指示がでて治療が施されました。
鼻から胃まで管を挿入して、管から栄養剤を注入する経管栄養も開始されました。

施設に戻ったらまた食事を食べてもらいたいから
(その施設では経管栄養をしている入居者は、
安全管理面から受け入れられない決まりがありました)
早めに管を抜いて食事を食べるリハビリをして欲しいという希望を伝えましたが、
「口からの摂取は誤嚥性肺炎の危険が高いので許可するわけにはいかない」との返事。

施設側は困ってしまいましたが、ご家族から、父を同じ施設に戻らせてあげたい、
退院後は管を抜いて口から食べてもらって構わない、
もしそれで肺炎を起こすような事になればそれはそれでその時に次の事を考える、
との言葉をいただき退院することになりました。

退院後、嚥下機能はどうなっているんだろうか・・

注意深く観察しながらとろみのついた水分を介助で口に含ませるものの、
むせる様子もありません。そして、ミキサーでペースト状にした食事を
摂取することができたのです。それから数日様子をみましたが、
誤嚥している様子は見られず、食事量も日によってばらつきはあるものの、
摂取することができました。

ご家族も、「父にとってこの施設は家と一緒だから、
施設に戻る事が出来て、慣れた顔なじみの皆さんのお世話になれて、
食べる元気もでたのだと思います。
病院ではずっとベッドに寝かされたままでどんどん弱っていく気がしました」
とおっしゃられ、大変喜ばれました。

食べる意欲は人や環境によっても左右されること、
そして高齢者=誤嚥を起こすと容易に考えがちですが、
きちんとした評価も必要と感じたエピソードでした。



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